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ツネ語ログ

ツネザワシ(Tsunezawashi )です!漢字教育士をやってます。

【基本?】漢和辞典アレコレ 〜辞典によって何が違うのか〜

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書店には漢和辞典がたくさん並んでいますが、一体何が違うと言うのでしょう。知ってるようで意外と知らない、辞典の違いを紹介します。

研究者が変われば、字の成り立ちなど、解釈が変わる

まず、多くの漢和辞典は『説文解字』という、中国の古い字典をベースに作られています。
後漢の時代、許慎(キョシン)によって著され、数多の漢字が解説されています。

ただ説文解字が編集された頃は、まだ古い字形である甲骨文字が発見されていませんでした。
つまり、甲骨文字を基にした解釈が説文解字には載っていないのです。


また、研究者によって漢字の解釈も異なります。
そのため、世に出ている漢和辞典は、編者によって内容が異なっているのです。
勿論、共通の認識もあります。『説文解字』の影響力は非常に大きいのです。

藤堂明保
学校の図書室に置かれていた『学研漢和大辞典』を覚えている方もいることでしょう。『広辞苑』のように、分厚い辞典なのです。
藤堂の基本的な考えは、「漢字の音と特定の意味の結びつき」というものです。そう、漢字の音を重視したのです。
文字は言葉を視覚的に訴えて表す道具に過ぎない、というのは、言語学の捉え方に近いかも知れませんね。
ここでポイントになるのが、藤堂の「単語家族」というアイデアです。
字の音と音同士が近ければ、共通の意味を持つ、というものです。なかなか日本語ではイメージが湧きにくいかも知れませんね。

例えば、「青」と、「晴」「清」「精」を見てみましょう。どれも「セイ」という音を持っています。(※あくまでもこれは、日本での音なので、中国本来の音は違うのです)
この「セイ」と言う音を持つこれらの字には、澄み切ったものという共通の意味があると捉えられます。この「セイ」という音と、ある特定の意味が結びつくのです。

加藤常賢
説文解字を基に編纂。氏の『漢字の起源』では、説文解字の内容がガッツリ登場するので、興味・理解がなければ、なかなか難しいモノに仕上がっています。

他にも「民俗宗教」も解釈に導入しています。
例えば、古代中国の社会における「シャーマニズム」を例に挙げましょう。
シャーマンは、超自然的な力を扱い、また人智を超えた存在と交信できる存在でもありました。
古代の社会において、こういった能力を持ったシャーマンは「指導者」でもあったのです。
概して、シャーマンは背中の曲がった、柔弱な人でした。これは老人の特徴でもありますね。
…このような「シャーマニズム」解釈が随所に導入されているのです。

諸橋轍次
世界最大の辞典、『大漢和辞典』を編纂。大修館書店から他にも『広漢和辞典』『漢語林』等が出ています。鎌田正・米山寅太郎 両氏は、この諸橋轍次の流れを汲む訳です。
大漢和はやはり流石というべきもので、親字数は5万字、そして前15巻に及び、お値段も25万円という代物。その情報量の多さには目をみはるものがありますね。
古い辞書や文献から、データが掻き集められており、世界最大というのも頷けます。ただ、ちらほら誤りもある…のですが、なかなか改訂版が出ません。理由は上述の通り……。

白川静
近年人気の研究者であり、独特な文字解釈が取り入れらています。
『字統』『字通』『字訓』の三部作が有名ですが、より一般的なものでは『常用字解』が身近なものでしょう。

白川の考えの一つである「サイ」は「神への祝詞を入れる器」を示し、これが最大のポイントでもあります。
この「サイ」によって、新しい切り口の解釈が行われました。
それは今まで「口(くち)」だと考えられていたものを「サイ」として再検討したのです。
また古代の儀礼・呪術的事象を、数多くの資料から調べ上げ、字の成り立ちを説明しています。
ただ、白川の解釈に懐疑的な意見も多いのも確かです。
学会でも、藤堂派、加藤派、白川派…というように様々な派閥が存在している…らしいです。

私自身、この『白川文字学』は興味深いものと感じますし、児童の漢字学習の助けになるとも思います。白川の考え方は、確かに「入り易いテーマ」だと思います。
※小ネタとしては、福井県の教育委員会が白川文字学を大きく取り上げています。
これは白川が福井出身ということもあるでしょう…。
地方紙である、福井新聞でも白川文字学が紹介されています。

まだまだある、漢和辞典
紹介した研究者が全てではありません。勿論、日本ではなく、中国の研究者もいます。
そして、上記の辞典以外にも世の中にはまだまだ数多くの辞典があるのです。
旺文社、岩波、小学館…各社、ありとあらゆる辞典が書店を賑わせているのですね。
さらには、古い時代の辞典もあるのです。

例えば『康熙字典(コウキジテン)』。聞いたことがある方もいるかも知れませんね。
清の時代、「康熙帝」の命令によってまとめ上げられたものです。
上述の、説文解字よりも後にできたものにあたります。

文字解釈は一つではない
漢字学習において、覚えておきたいこと、それは文字の解釈は一つではないということです。
近年ではテレビやインターネットで漢字の成り立ちをよく見聞きすることかと思いますが、実際のところ、その成り立ちの解釈が「誰」・「何」の解釈なのかは、同時に説明されていないケースが多いように感じられます。

前述の通り、漢和辞典一つをとっても、多岐に及びます。
勿論、多くの学者が説文解字を基にしているとはいえ、各々の解釈が及んでいるのです。
私たち漢字学習者は、広い視野を以て、取り組む必要があります。
ただ、その学習の中で、好きな研究者は出てくることでしょう。
また、使いやすい・読みやすい辞典というのも見つかることでしょう。

結局のところ、漢字は古いものですし、その「情報源」も同様に古いものなので、どうしても正解がわからない部分が大きいのです。

2017年2月 編集済